手書き文字の背景や文字の種類

1 映画に字幕が入るまでの話

映画の中で俳優が発する声、ラジオから流れるDJの声、歌の歌詞や手紙の内容、地名や施設の名前その他物語が進行する上で重要なキーワードとなる文字などが字幕として表現されます。

これらの字幕原稿は、オリジナルの台詞をもとに翻訳者が翻訳し制作会社や配給会社がチェックした上で、できあがります。

その後、その字幕原稿をもとにタイトルライターという文字職人が字幕をデザインし(書き)、現像所がそのデザインされた字幕カードを映画のフィルムに焼き付けて完成となります。

おおよその流れは上記の通りですが、実に様々な人々が介在して一つの映画が字幕付きで上映されるのです。

2 字幕文字の種類

字幕文字デザインというのは、たくさんある字幕製作作業工程の中の一つです。

タイトルライターは、映画のフィルムの種類によって文字の格好を多様に変えます。

というのも、映画のフィルムには、ポジフィルムかネガフィルムか、あるいは35mmか16mmか、さらにシネマスコープかビスタサイズか、と代表的なものを数えただけで8種類のフィルムが存在するからです。そのためタイトルライターはフィルムの種類によって、またその映画字幕が縦書きか横書きなのかによって、微妙に文字を変化させています。

例えば、シネスコフィルムは、

図1

図2       

図1のような映像がスクリーンに映し出されてた場合、横に対して像をレンズで広げているのでフィルムそのものには、図2のように横に縮小したような絵になっています。

そのため、文字もあらかじめ縦長に書いておかないとスクリーンに映し出された際にきちんと表現されません。

さらにシネスコの倍率というのは、一つではありません。つまりシネスコ倍率によっても描く文字は、変わってくるのです…。

3 まだまだ続く!タイトルライターの職人技

文章の文字数が多くなってもセンターにぴったり合うように、しかも文字数で計算したセンターではなく全体のバランスから割り出した重心がセンターになるように書きます。

サンプル1(パチパチの文字*1)

例えば、上のような字幕の場合、左側に漢字が集中しているため微妙にセンターが右にずれています。

けれども、動きのある映像とともに見た場合、このずれのおかげで映像の重心がブレないため見やすいのです。

というより字幕のアンバランスに気を取られずに、映画の世界にどっぷり浸れると言った方が正しいかもしれません。

また、サンプル1では少々縦長の文字となっています。これは、シネスコ用ではなくスクリーンで見るものと同じくらいの比率の文字です。多少縦長の方が、横書き字幕は早く読め、また長時間読んでいても目が疲れません。

歌の歌詞などは、歌詞の訳を通常イタリック体で表現します。そして、2行に渡る場合は、左右に千鳥配置させます。(サンプル2参照)

もちろん千鳥配置の時も、全体のバランスからセンターを割り出します。

サンプル2(イタリック千鳥配置)

こういった計算をしながらタイトルライターは、黒紙に白いポスターカラーを用い、筆で書いていたのです。

他にも読みやすくするためのノウハウが手書き字幕には存在します。

観客にとって字幕は、映画の中に入り込む窓口であると考えます。映画鑑賞後、印象に残らない字幕こそ、映画にとっていい字幕と言えるのではないでしょうか。

4 映画の字幕が手書きだったのは…

その昔、ワードプロセッサなど存在せず、必然的に手で書く他に手段がなかったこともあり…

また、元来縦書きが主であった字幕は、非常に機械化に対して障害が多かったとも言えます。

長らく映画館で手書き文字が用いられると、逆に手書き文字そのものが、映画独特の雰囲気を作り出す効果となりました。

今日では、その効果をねらいCMでわざわざ手書き字幕を挿入するケースも珍しくありません。

現在の劇場映画は、反対に写植の機械的字幕の映画が多くなりました。(写植:丸ゴシック体、正しくはディナールと言うそうです)

せっかく映画館の大画面で見ているのに、なんとなくレンタルビデオでも観ているような錯覚に陥りませんか?

ちなみに劇場公開で手書き字幕でもDVDになると写植文字の字幕になってしまうのが普通です。

最近少しずつですがDVDに手書き字幕を選択できるものも出てきました。